NEWS 新着情報

漫画「トライガン」シリーズ原作者・内藤泰弘先生×武藤健司監督長編インタビュー

──アニメ『TRIGUN STAMPEDE』が2023年1月よりテレビ東京他にて放送されています。改めて、アニメ化発表をうけて内藤先生はどう感じられましたか。

内藤泰弘(以下、内藤) この作品は準備期間が非常に長くて、プロジェクトが動き出してから5年ぐらい経っておりまして。だから長年温めていたものをいよいよ皆さんの前にお出しできる感慨がとても大きかったです。あとは原作に比べてかなり大胆な変更がされているので、どう受け止められるかも気になっていました。最初にイベントでPVを公開した時に「もう一回見せろ」という感じの熱量とパワーを返してもらえたのは感動的でしたね。

──PVが公開されたのは今年7月にロサンゼルスで開催された「Anime Expo 2022」でのパネルトークイベントにおいてでした。『トライガン』は海外での人気も非常に根強いですね。

内藤 海外のファンの方はひとつの作品を好きになると、ずっとご愛顧してくださる傾向が強い。新しい作品が次々と出てくる世の中で、もちろん新しいものに興味を持ちながらも、古い作品も上書きせずに大切にしてくれる気がします。ずっと俺たちの心の中に『トライガン』はいるんだぜ、と言ってくださる方が多いですね。

──それだけ長く多くの人に愛されてきた『トライガン』という作品に関わることになって、武藤監督はどう感じられましたか?

武藤健司(以下、武藤) 監督を受けた時点では作品のファンというわけではなく、比較的フラットな状態でした。長い歴史がある作品を手掛けるときにはそれに縛られてしまう部分もあるので、今回はまっさらなところからスタートできたのではないかと思います。1998年にマッドハウス版のアニメ『TRIGUN』が放送された頃は学生だったんですが、アニメからは少し離れていた時期だったので、大ブレイクを横目で見ている感じでした。

内藤 そういうタイミングだったんですね。

武藤 同じクラスにも『トライガン』の大ファンがいたのは鮮烈に記憶に残っています。その後私は丸山正雄(マッドハウスの設立者で、現在はMAPPA代表取締役会長)という師匠のような存在に声をかけられて、商業アニメーションの世界に進みました。そこで最初に私にタイムシートの書き方などを教えてくれたのが西村聡さんだったんです。

──マッドハウス版のアニメ『TRIGUN』で監督を手掛けた西村聡さん。

武藤 そうなんです。だから自分が新しい『TRIGUN STAMPEDE』に携わることには縁を感じています。今回作品に参加するにあたっては、原作コミックをとにかく何度も細部まで読み込むところからスタートしました。まずは原作を理解して好きになろうと。

内藤 最初からお仕事の現場で、作品をどのように汲み上げるかという視点でのスタートだったんですね。

武藤 はい。作品を表面的になぞるのは苦手なので、まずは内藤先生に直接お話を伺いました。どういう哲学をもって『トライガン』という作品とヴァッシュに向き合って、作り上げてこられたのかを知りたかったんです。

内藤 最初は中華料理屋で顔合わせをしてお話をしたんですが、かなり前なので内容は詳しくは覚えていないです。でも東宝の武井克弘プロデューサーが予約の時間に遅れて中華料理屋の大将に怒られてガチ凹みしていたことそれだけはしっかり覚えています(笑)。

武藤 めっちゃ怒られてましたね!

内藤 その時どう話したかは覚えてないんですけど、確かなのは自分がどのように『トライガン』を作ったか、どうやってヴァッシュが生まれたかという部分は自分で言語化できていないんですよね。結果としてできあがったヴァッシュという存在がいて、何故ああなったかは俺にもわからないという。常に作品と格闘してもつれこんだ先にあった感じです。

──監督の側で、内藤先生に聞いて印象に残っていることはありますか?

武藤 「ニコラス・D・ウルフウッドに気をつけろ」と繰り返し言われたのは鮮烈に覚えています。ファンの多いキャラクターだから取り扱い注意だと。あとは「『トライガン』は痛快なんだよ!」という言葉もかなり印象に残りました。
内藤 1998年のマッドハウスさん版のアニメで積み上げられたヴァッシュのキャラクター性もあるじゃないですか。そのあたりの影響はにじんでいたりするんですか?

武藤 原作にはない部分を補完していたりもしますよね。 今回ヴァッシュたちを作り上げる上では、徹底して原作コミックと、内藤先生との会話を元に構築しました。ただプロデューサー陣の中には前シリーズのアニメが前提として入っているので、会話の中でそのエピソード原作にはないよね、となったりはしますね。

内藤 集合知として自然に入っている部分もあるんでしょうね。

──武藤監督は『トライガン』の原作の魅力をどのようにアニメに昇華させていったのでしょうか。

武藤 世界観から言えばウェスタンな要素とSF的な要素が合体している作品なんですが、自分はウェスタンというものをあまり通ってこなかったので、内藤先生が通ったであろう名作の数々を手当たり次第に見ました。内藤先生イズムをトレースして取り入れたいなと思ったんです。その上でぶつかったのは、やはりヴァッシュ・ザ・スタンピードというキャラクターです。イデオロギーがはっきりしたキャラクターは言語化しやすいので、正直ナイヴズやニコラスが主人公ならどんなに楽かと思いました。

内藤 僕は自分で(オリジナルを)描いているから、出したものを正解と呼んじゃっていいんですよね。だって、こうなったんだから仕方ないでしょとできる。でもそれを別の人が客体化して作品に落としこむとなるとハードルは俄然上がっちゃいますよね。難しかったというのは本当にそうだと思います、僕がやれって言われたら絶対嫌です(笑)。

武藤 実はある程度制作が進んだ段階でマッドハウス版のアニメも見てるんですが、ヴァッシュに女好きな要素が足されていたり、当時関わった方々も苦労していたんだろうなと思います。

内藤 あの頃はまだ原作も途中でしたしね。女好きの設定はね、たしか丸山さんから出てきたんだと思います。原作のままのヴァッシュだとあまり人と関わろうとしないので、事件が起こせないんですよ。人間関係を作ろうとしないし、トラブルがあっても人知れず解決して立ち去っちゃう。

武藤 女好きはそのための設定だったんですね。『トライガン』にはいろいろな立場の勢力が登場しますが、ヴァッシュはそのどこにも属さず、でも自由に関わりあう存在として僕はイメージして作っています。ヴァッシュはボーダーレスな存在で、ラブ&ピースを唱えながら世界を渡っていく。個人的なこだわりで、ラブ&ピースというフレーズは使わずにそれを表現したいと思っています。今回のアニメは原作が完結した状態から作り出しているので、結末から逆算して作った結果、原作が持つSF的要素の方によりクローズアップしたテイストになっていると思います。

──原作ではメリル・ストライフの設定は保険協会の災害調査員でしたが、本作では新人記者に設定が変わっています。

武藤 原作コミックの最終巻で、メリルたちは報道の突撃取材班に仕事を変えてるんです。いろいろと僕の中では考えていることがあって設定を変えたというか、ふくらませた感じですね 。原作コミックで描かれているのが先輩としてのメリルだとすれば、本作ではそこに至るまで、新人時代のメリルを描きたいなと思っています。少し幼いイメージになっているかもしれません。

内藤 武藤監督の考えていることを全部聞いている僕としては、『トライガン』という作品をかなり取りこぼすところなく作ってくれていると思います。

──コンセプトアートの田島光二さんも作品制作で大きな役割を果たしていると伺いました。

武藤 はじめましてだったので手探りからはじまったんですが、僕のアバウトな発注をあれだけ的確に打ち返してくれるのは田島光二さんしかいないだろうなと思います。海外でずっとやっている方なので、どこか日本人的なマインドを大切にしているというか、日本人が作ってるんだぜという部分を核にしてるんじゃないかと感じています。

内藤 企画の立ち上げ頃、毎週田島さんから膨大なスケッチが送られてくるんです。内容を見るともうとにかく盛られているんですね。うわぁどこまで広げるんだろうと驚くぐらいに。最終的には収斂していくわけですが、その“盛っていく”時期だけで2年間はやっていました。

武藤 スケッチや設定の文章はそれはもう膨大にあるんですが、おそらく1割ぐらいしか使っていないと思います。設定を考えたり、考証的なことを調べたりしたものをそのまま出すと説教臭くなってしまうので、そぎ落としにそぎ落としていくことを意識しています。

内藤 絞ったように見えて、作品の背後にある裏打ちするものってのはきっと伝わると思うんですよ。これはハリボテではないなと。

──今までのお話を踏まえた上で、内藤先生から見たアニメ『TRIGUN STAMPEDE』の印象を伺いたいです。

内藤 できあがったフィルムを見ると、ものすごく『トライガン』だなと感じています。原作漫画のあらゆる要素をがーっと抜き出して、ふくらませて、並べ替えて、ブラッシュアップしながら厚みのある世界観を構築して、キャラクターを掘り下げる作業を僕はずっと横で見てきました。そのこだわりと仕事量を見ていると、原作者としてはもう全部ベットするしかない! という感じで。刻一刻できあがってくるものを見るとかなりかっ飛ばした部分もあるのですが、そこは手綱を緩めて「行け!」と自由にやってもらったほうが絶対に飛距離が伸びると思いました。

武藤 そこに関しては自分も近い感覚があって、TVで放送する長さのアニメって監督がすべてを思い通りにコントロールできるわけではないんですね。今はスタッフ各自から「俺の解釈した『トライガン』最高だろ?」というカットが上がってくるので、多少のイメージに誤差があってもこのフルスイング気持ちいいじゃん! という感じを大事にしています。

──最後にファンの皆さんにメッセージをお願いします。

武藤 目指しているのは、魅力ある欠陥品です。『トライガン』は様々な展開をしていて、それぞれに楽しみ方のある作品だと思います。でも色々な意見の顔色をうかがうよりも、本当に僕が面白いって思える『トライガン』、自分が好きだなと思える作品を作りました。それが一人でも多くの人に伝われば大成功だと思っています。

内藤 放映も後半戦を迎え、毎週皆さんのビビッドな反応を楽しみにしています。なぜこの作品からこんなに『トライガン』を感じるのか、僕自身にも未だに完全にはわかっていないのですが、先日そのゴールである最終回を見て、暫し放心した事をお伝えします。。全てが見たことのない怒涛の展開なのに、どこまでもどこまでも『トライガン』叩き込まれたという感覚。凄まじい仕事だと胸が一杯になったこの気持ちを、果たして皆さんと共有していただけるのか、今からワクワクしています。その瞬間を一緒に過ごすため、どうぞ最後までご視聴よろしくお願いいたします。